マクロを組んだ担当者の退職が見えたら、退職日から逆算して「野良マクロの棚卸し → 重要度の仕分け → 生成AIによるVBAコードの解読・仕様書の復元」の3段階で立て直すのが現実的です。すでに退職してしまった後でも、ファイルとコードが残っていれば復元は可能です。近年は生成AIがVBAコードを日本語に「翻訳」してくれるため、解読のハードルは以前より大きく下がりました。この記事では、退職まで3ヶ月を想定した実務手順と、退職後のリカバリー手順を、建設・物流の台帳業務を例に解説します。
なぜエクセルマクロの属人化は、担当者の退職で「事故」になるのか?
結論から言うと、マクロは「作った本人にしか中身が見えないブラックボックス」になりやすく、退職と同時に“直せる人がゼロ”になるからです。動いている間は誰も困らないため、問題は退職後、最初のエラーで突然表面化します。
情報システム部門や外部業者の管理外で、現場の担当者が独自に作り込んだマクロは「野良マクロ」と呼ばれます。建設業なら実行予算や労務安全書類の集計台帳、物流業なら配車表や請求データの変換処理など、ボタン一つで何十分もの作業を片づけてくれる便利な存在です。しかし便利であるほど業務の中枢に食い込み、次の理由で属人化が進みます。
- 仕様書が残っていない…「何を読み込んで、何を書き出すか」が本人の頭の中にしかない
- 動いている間は誰も中を見ない…触ると壊れそうで、あえて開けない空気ができる
- Excelは誰でも作れてしまう…システムと違い、導入の決裁も管理台帳も通らずに増えていく
典型的な事故は、退職の翌月、月初の請求処理でボタンを押したらエラーで止まる、というものです。誰も直せず、手作業で数字を拾い直す残業が続きます。だからこそ、退職が決まった時点で計画的に動くことが重要です。
退職まで3ヶ月あるなら、何をどの順番で進めるべきですか?
答えは「最初の1ヶ月で棚卸し、次の1ヶ月で仕分け、最後の1ヶ月でAI解読と本人への答え合わせ」です。ポイントは、本人がいるうちにしかできない「答え合わせ」を最後の1ヶ月に確実に残すことです。全体像を対応表にまとめます。
| 残り期間 | やること | 手に入る成果物 |
|---|---|---|
| 3ヶ月前〜 | 野良マクロの棚卸し(自動で動くExcelの洗い出し) | マクロ一覧表 |
| 2ヶ月前〜 | 重要度の仕分け(止まると業務が止まるものから) | 優先順位付きリスト |
| 1ヶ月前〜 | 生成AIでコード解読→仕様書を復元→本人に答え合わせ | 業務仕様書・引き継ぎメモ |
| 退職後 | 仕様書をもとに「マクロ延命かシステム化か」を判断 | 恒久的な運用体制 |
残り3ヶ月:野良マクロを棚卸しする
まず「どこに、いくつあるか」を把握します。本人へのヒアリングと合わせて、次のチェックリストで社内の共有フォルダを見て回ってください。
- ボタンを押すと表が更新される・帳票が出てくるExcelファイル
- 開いた瞬間に自動で何かが動く(更新確認が出る)ファイル
- 「これは〇〇さんしか触れない」「壊れるから触るな」と言われている台帳
残り2ヶ月:重要度で仕分ける
全部を完璧に引き継ぐのは現実的ではありません。「止まると業務が止まるか」「手作業で代替できるか」「月に何回使うか」の3点で仕分け、請求・支払い・現場に直結するものだけをA級として次の工程へ進めます。B級以下は一覧表に残すだけでも、退職後の混乱が大きく減ります。
残り1ヶ月:AIで仕様書を復元し、本人に「答え合わせ」する
A級マクロのVBAコードを取り出し、生成AIに日本語の仕様書へ翻訳させます(手順とプロンプトは次章)。そのうえで、AIが書いた仕様書を本人に見せて「ここは違う」「実はこういう例外がある」を赤入れしてもらうのがこの1ヶ月の核心です。ゼロから文書を書いてもらうより本人の負担が小さく、忙しい退職前でも現実的です。
生成AIはVBAのブラックボックス解読にどこまで使えますか?
コードさえ取り出せれば、「処理の流れを日本語の仕様書に翻訳する」作業の大部分は生成AIに任せられます。ただしAIの説明の検証は、必ず人が実際の動きと突き合わせて行う必要があります。
VBAコードの取り出しは難しくありません。対象のExcelファイルを開き、「Alt」+「F11」を押すとVBAエディタが開きます。左側の一覧から「標準モジュール」などを開いてコードをすべてコピーし、次のようなプロンプトと一緒にAIへ貼り付けてください。
あなたはVBAに詳しいシステムエンジニアです。
以下のVBAコードを解析し、ITが得意でない人にも分かる仕様書を
次の形式で作成してください。
1. このマクロの目的(一文で)
2. 処理の流れ(専門用語を使わず箇条書きで)
3. 入力:参照しているシート名・セル範囲・外部ファイル
4. 出力:書き込むシート・作成されるファイル
5. 危険な決め打ち:特定の日付・担当者名・フォルダの場所など、
環境が変わると動かなくなる箇所
【VBAコード】
(ここにコピーしたコードを貼り付け)
特に重要なのが「5. 危険な決め打ち」です。退職者のユーザー名やフォルダの場所がコードに直接書かれているケースは多く、事前に見つければ「退職後に突然止まる」事故の多くを防げます。注意点は次の3つです。
- 社名・取引先名・個人名はマスキングしてから貼り付ける…社外秘をそのまま渡さないのが原則です
- AIの説明は必ず実物と突き合わせる…テスト用のコピーファイルで実際に動かし、仕様書どおりか確認します
- 会社としてどのAIサービスを使ってよいか決めておく…入力データが学習に使われない設定・プランの利用が安心です
担当者がすでに退職してしまった場合、どうリカバリーすればよいですか?
慌てて原本を触らないことが第一です。手順は「保全 → 記録 → 解読 → 検証」の順で、ファイルとコードが残っていれば、本人がいなくても立て直せる可能性は十分あります。
- 保全:該当ファイルをコピーしてバックアップを取る(原本は触らない・上書き保存しない)
- 記録:まだ動くうちに「何を入れると、何が出てくるか」を画面録画やスクリーンショットで残す
- 解読:コピーの方から「Alt+F11」でVBAコードを取り出し、前章のプロンプトで生成AIに仕様書を作らせる
- 検証:テスト用データで動かし、AIの仕様書と実際の動きのズレを潰していく
- 暫定運用:「誰がボタンを押すか」「エラーが出たら誰に連絡するか」を決めて紙1枚にしておく
なお、VBAにパスワード保護がかかっている場合、無理な解除はファイルを壊すおそれがあります。基幹業務を担うマクロなら、自力で格闘するより専門家に相談するほうが早くて安全です。
解読できたマクロは、直して使い続けるべきか、システム化すべきか?
判断の軸は「使う人数」と「業務の重要度」です。1〜2人で使う単純な処理ならマクロの延命で十分、複数人が関わる基幹的な台帳なら、同じ属人化を繰り返さないためにシステム化を検討する価値があります。
- マクロ延命でよいケース:使うのが1〜2人/処理が単純/止まっても手作業で代替できる
- システム化を検討したいケース:複数人・複数部署で使う/請求や原価など止められない業務/他の台帳との二重入力や転記ミスが慢性化している
- Excel自体の限界に達しているケース:同時に編集できない/現場のスマホから見られない/データが増えて動作が重い
「システム化」と聞くと大がかりな話に聞こえるかもしれません。実際、オリジナルの業務システムは従来300〜500万円以上かかると言われてきました。しかし現在は、AIを開発に活用することで費用の壁は大きく下がっています。たとえば当社の伴走型DX開発では、歴10年以上のプロエンジニアがAI(Claude Code等)を活用し、自社の業務に合わせた専用システムを初期費用10万円+月額5万円〜(税別)で構築しています。パッケージに業務を合わせるのではなく、いま使っている台帳の流れに合わせて作り、定着まで月額で伴走する形です。マクロの解読で復元した仕様書は、そのままシステム化の設計図として活きます。
ブラックボックスの解消を、一人で抱え込まないために
エクセルマクロの属人化は、担当者の退職という「期限のあるリスク」です。退職まで時間があるなら棚卸し・仕分け・AI解読の3段階を、すでに退職してしまったなら保全・記録・解読・検証の順を、ぜひ今日から始めてください。
株式会社B.I.Yは、建設・建築・物流の中小企業に特化したAI活用のパートナーです。「マクロの中身を解読してほしい」「この台帳、属人化しない形に作り直せないか」といったご相談に、伴走型DX開発の枠組みでお応えしています。まずは30分の無料相談で、御社のマクロの現状をお聞かせください。お電話(050-3152-1971)またはお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
よくある質問
「野良マクロ」とは何ですか?
情報システム部門や外部業者の管理を通さず、現場の担当者が独自に作ったExcelマクロのことです。便利な半面、仕様書がなく作った本人しか直せないため、退職や異動でブラックボックス化しやすいリスクがあります。
マクロを作った人がすでに退職しています。今からでも間に合いますか?
ファイルとVBAコードが残っていれば、立て直せる可能性は十分あります。原本のバックアップを取り、動くうちに入力と出力の対応を記録し、コードを取り出して生成AIで仕様書を復元する、という順で進めてください。
生成AIにVBAコードを貼り付けても、情報漏えいの心配はありませんか?
社名・取引先名・個人名などはマスキングしてから貼り付けるのが原則です。あわせて、入力データが学習に使われない設定やプランを選び、会社としてどのAIサービスを使ってよいかルールを決めておくと安心です。
マクロにパスワードがかかっていて中身を確認できません。どうすればよいですか?
無理に解除を試みるのはおすすめしません。ファイルを壊すおそれがあるほか、方法によっては法的・契約的な問題も絡みます。まずは「入力と出力の記録」だけでも残し、基幹業務に関わるものは専門家に相談してください。